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「……クレアラータ?」
何故ここで、王女が出てくるのか。
「お待ちくださ……」
軽く混乱しながらも老婆を呼びとめようと顔を上げると、そこにはもう「審判の魔女」の姿は無かった。
(……え?)
先ほどまで確かにそこにいたはずの、老婆の姿が忽然と消えている。
茫然としていると、牢番がいつものように食事を運んで来た。
「王妃様、お食事の時間です」
寝台の傍に盆を置き、牢から出ようとした兵士の背中に思わず、声をかける。
「今、老婆の姿を見なかったか?」
「は?」
怪訝そうな顔で、牢番が振り向く。
「黒いローブをはおった、背の低い……」
「いえ、自分は何も見ておりませんが。そのような者の面会の予定も本日はないはずですし、侵入者の報告もありませんでした」
「……そうか」
「何か、不審なことでもございましたか?」
得心がいかないままフランチェスカは表情を真顔に戻し、何事も無かったかのように平然を装った。
「いや、何もない。私の目の錯覚か、蝋燭の影か何かを見間違えたようだ」
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