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「木村主任」
前方を歩くキリリとした背中。背中の中ほどで揺れる、一見、無造作に束ねられたナチュラルブラウンの髪。制服でもある、グリーンのポロシャツの肩は、普通の女性と違い、やや逞しい。
「なに?」
聞きやすいアルトの声が短く、僕の呼び掛けに答えると同時に、ナチュラルブラウンの髪がひるがえった。
「3階の内田さんですが、背中に発赤ができていると、鈴木さんから伝言です」
3階を丁度、巡回中の僕は、入浴介助に入っていた鈴木さんに呼び止められ、この伝言を預かった。通りすがりで、この施設においては経験も少ない僕なので『石けんも使わないほうがいいかな?』と心配していた鈴木さんに『主任に聞いてみますよ』と言うのが精一杯。またまだ精進が必要な毎日だ。
「今、入浴中?」
「僕が話を聞いたときは、まだ脱衣してました。石けんで洗ったほうがいいかどうか、悩んでましたけど」
話を最後まで聞くか聞かないかで、木村主任は歩きだす。1を聞いて10を理解してしまう人だし、時間がモッタイナイぐらいに忙しい人でもある。
「西の個浴です」
「ありがとう。結城くんは見た?」
「いえ、女性しかダメじゃないですか。内田さんって」
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