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「はい、それじゃあ、樹利君、スタンバイお願いします」
カメラマンの声に、可愛は心臓がバクバク高鳴ることを感じながらカメラの前に立った。
すでにスタンバイしていたベテランモデルの愛羅は不敵な笑みでこちらを見て、
「久し振り、樹利」
と肩に手を乗せてきた。
ふっくらとした唇に、グラマラスなスタイル。
彼女の身体から甘い香りが漂っていた。
……久し振りって、どのくらい久し振りなんだろう?
分からないから、とりあえず口数を少なくしておこう。
そう思い「ああ」とだけ答えると、
「会いたかったわ。
あの意地悪な夜が忘れられなかったんだから」
と意味深に微笑んだ。
―――えっ?
どういうこと?
樹利と愛羅さんは関係があったってこと?
久し振りって言ってたから、私と付き合う前に?
そういえば撮影、愛羅さんとだって聞いたら、樹利は複雑な表情をしてたんだ。
バクバクと鼓動が打ち鳴らす中、とっさにスタジオの隅に立つ樹利を眺めると、樹利はスタッフと話していて、何か雑用を頼まれた様子でそのままスタジオを出て行った。
あっ、スタジオから出て行っちゃった!
「それじゃあ、まず愛羅。
両手で樹利君の肩に手を乗せて、頬にキスをするイメージで。
樹利君、目線こっち」
そう声を上げたカメラマンに我に返り、可愛は動揺を隠しながら指示通りカメラに視線を向けた。
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