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「大丈夫?痛む?」
「あ、まぁまぁ…?です」
少年は頬を殴られたようだ。
「よし、完了。」
「えっと。有り難うございます!!この家のお方は優しいんですね!」
「そんなことないけどね…。」
「そんなことないですよ!少なくとも今までと印象が全然違います!」
「ん?」
今までと印象が違う?なに言ってんのこの子。
殴られて記憶こんがらがってんのかな。
「ほら。稲荷さんって言ったらクラスで無表情でクールなキャラじゃないですか。でも優しい所あるんだなぁーって。」
「は?…クラス!?待って!あんた誰!!?」
「えっと浅羽日向ですけど…。」
きょとんとした顔で返された。同じクラスか。興味ないから気付かなかった。
それにしても小っちゃいな。この子何部だ…。
「へぇ。何部だっけ?」
「えと、吹奏楽部です…。」
「……。はぁ!?吹部!?」
私の一番嫌いな部活じゃんか。ダメだ。この子とはやっていけない。
「俺。萌々乃さんの家一回行ってみたかったんです。」
あぁ、楽器会社の社長の家だしね。楽器いっぱいあるしね。
「へぇ。」
素っ気なく返事をした。
私は吹奏楽の話なんか聞きたくないのに。嫌なのに。
浅羽は目を輝かせている。
「俺のパート何か分かりますか!?」
「えっと…。フルート?」
小柄で細見なので適当に答えてみた。
「違いますよ!パーカッションです!パーカッション!」
「あぁ…。打楽器ね。」
打楽器ならまぁ、耳もそんなに痛くないかな。
それにしても打楽器か。こんなに細くて叩けるのか?
「あんた細っちぃけど、そんなんで叩けるの…?」
「…?打楽器に細いも関係ありませんよ。手首を返す筋肉があれば細くても演奏できるんです。」
「へぇー。それは知らなかったわ。」
私は管楽器だったので打楽器の事は詳しく知らなかった。
「稲荷さんって吹奏楽とか興味ないんですか?」
「…ないっていうか。中学の頃はやって、た。」
ズキズキと胸が痛い。圧迫されてる気分だ。
「楽器は何だったんですか?」
「……クラリネット。」
「バンドの柱ですね!稲荷さんは凄いなぁ。稲荷さんの事だし、firstだったんですよね!?」
「ち…。あ、たりまえでしょ?」
言葉を飲み込んだ。唇も乾いてきた。バレてないよね…?
「流石です!」
浅羽は目をキラキラと輝かせて、尊敬の眼差しを向けてくる。
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