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「なんで入らないんですか?」
「え…」
私は肩を竦める。
「吹奏楽ですよ。中学でfirstやってたなら、普通入るんじゃ…?」
「……。」
言葉に詰まる。なんと言えばいいのだろう。
何か言わなきゃ。
「そんなの勝手でしょ?人には事情があんのよ。」
こんなことを言いたい訳じゃないのに…。口が勝手に動く。
「そっか。…そうですよね。」
ニコっと浅羽は笑う。私を傷つけないように。
それが私にはかえって傷ついた。
「浅羽はさ。コンクール出てるの?」
「いえ。今年はウチAの部しか出ないらしくて。俺はレギュラー入り出来なかったんです。」
「オーディション…?」
「です…。今年の三年生上手すぎるんですよ。」
ははっといって浅羽は苦笑する。
しばらく苦笑していたが、急に真顔に戻る。
「なんていって。逃げたいだけなのかもしれません、俺。自分が出来ないのを他人のせいにして、自分を正当化したいだけなのかもしれないです。俺って最低…。」
「あんたは最低じゃないじゃん。」
つい本音が出てしまった。慌てたが、遅かった。
浅羽に聞かれていた。浅羽は目を丸くしてこちらを見ている。
「だ、だってさ。部活ちゃんとやってんでしょ!?それって…。一番辛い選択じゃない。レギュラー入りしてなくても健気に練習なんて。私には絶対無理。」
「えっと…。あり、がとうございます…。」
浅羽は下を向きながら擦れ声で言った。
「俺やっぱ決めました。頑張って先輩抜かします!次のコンクールには絶対出てみせます。」
「…う、うん。」
「稲荷さんのおかげで前向けました。だからですね…その・・・・」
浅羽は何かを言おうとしている。でも躊躇っている。
覚悟を決めたのかこちらをしっかり向いてきた。
「稲荷さんも。前、向いてみませんか?」
え…っと?
「ど、どういうこと?私あんたに何かしたっけ?」
「俺に対しては何もしてないですけど…。」
最後の方はごにょごにょと喋ってよく聞き取れなかった。
何なの?はっきり言いなさいよ!イライラしてきた。
「まぁ、今はいっか…。」
「はぁ?意味、分かんない。」
「いや、こっちの話だから大丈夫です!!それより俺もう帰らなきゃ。今日は有り難うございました!」
「…えぇ。…?また学校でね。」
「はい!」
そういって浅羽はパタンと扉を閉めるとメイドに丁寧に挨拶をして帰って行った。
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