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先程のマスターとの遣り取りで、いくらか緊張がほどけた。
相変わらず、きりちゃんはふてくされてるけど。
『ほら。お待ちどうさん。』
マスターがテーブル一杯に料理を並べる。
これって・・。
私の思考に気付いたのか、マスターが口を開いた。
『千紗ちゃんが練習してたのと、同じ料理だよ。』
やっぱり、そうだよね。
タンドリーチキンにシーフードドリア、カルパッチョも。
あの日の気持ちが蘇ってきて、胸を締め付ける。
本当なら二人で食べる筈だったけど、きりちゃんは帰ってこなくて。
NAOさんの影が頭を掠める。
大丈夫。
きりちゃんへの気持ちは私だけのもの。
見守っていくって決めたじゃない。
NAOさんと幸せになっていく、きりちゃんを見続けるって。
湧き上がってきた負の感情を、心の奥底に押し込めた。
シャンパンをグラスに注いだマスターが、優しく微笑む。
『では、ごゆっくり。』
そう言って、部屋を出て行った。
残されたのは、きりちゃんと私だけ。
変な静寂が辺りを包み込む。
『嫌だったか?』
その言葉に視線を上げれば、不安そうに揺れてる瞳と出会う。
さっきの感情を上手く誤魔化せていなかったらしい。
駄目だな。
ちゃんと隠さなきゃ。
心の中で深呼吸をすると、きりちゃんを見つめたまま、笑みを作り首を左右に振った。
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