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「4分だと……!? あの女がか!?」
幻覚の世界にいるとしか思えない。
以前もこのコースを走ったことがあるが、何度やっても4分半を前後したという経験がある。
それに対して、どんなに少なくとも20秒差。
20秒差だ。
ゴール前にパン一つ完食できる。
車が良ければタイムなんていくらでも縮められるが、乗っているのは宝クジでムルシエラゴを引き当てたド素人だったはず。
しかもあの空気を読めないクソ女。
幻想の世界という言葉以上に似合う言葉が見つからない。
《あの女の正体はゴールしてから問い詰めればいい。ムルシのドライバーがヒューガ・エストラーダであることは忘れろ》
「だっ…だけどよ! スカウトはどうなるんだ!? あの女に運び屋が務まるはずがねぇ! 大檻にあのクソネズミを投げ捨てて、俺っつーライオンは野放しかよ!?」
《思い出せ! レオ、お前には実績がある。今日のこの日まで無敗だったじゃねぇか》
「…………」
《レオの言う通り、お前はライオンで向こうはネズミ。拾うのはライオンに決まってる。4分半さえ切ればいい。お前はそれだけ考えればいいんだよ!》
「……ああ、そうだったな。分かった。切ってやるさ、4分半」
《その息だ。頼んだぜ、レオ!!》
通信が切れる。
次の駅を緩いクランク型に避けることでチュニシオ通りは終点だ。
クランクを抜けた直後に短いストレートと右コーナーがあるため、右、左、ストレート、右の複合セクションになる。
大丈夫だ。
いつものままなら規定タイムを切れるとジジも言っていた。
向こうに見えるムルシエラゴのテールランプは気に留めない。
絶対に留めない。
……だがレオの好奇心なるものは、生まれつき人一倍強かった。
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