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───ミラノのアイデンティティーは生まれ変わった。
澄んだ空気。
歴史情緒溢れるセピア色の街並み。
街並みを照らす、キセノンとHIDのスポットライト。
そして色とりどりに仕上げられたチューンドカー、パーチェ広場を駆け抜ける疾走感抜群のギターリフ。
ミラノ、車、ロック。
文化と文化と文化。
その融合を「廃れた」と表現する発想は、この物語のミラノでは死んでいる。
《おうおう、もっと飛び上がれ! イベントはまだまだこれからだぜ!》
「「「「オオォォーーーーッ!!!!」」」」
上がる歓声、唸るエンジン音。
舞台はミラノ中心部、センピオーネ公園の入り口であるアルコ・デッラ・パーチェだ。
平和の門を意味するその巨大オブジェは、広大な石畳の広場の中央に鎮座している。
《だがいいか? 空き缶のポイ捨てとド突き合いのケンカは厳禁だ。見付け次第アフターフレイムでバーベキューにしてやるぞ。オーケー?》
「「「「オオォォーーーーッ!!!!」」」」
またもや歓声が上がる。
パーチェの足元に設置されたインスタントのステージ、そしてDJブースの前には50人以上もの人間が集結。
ステージでギターを掻き鳴らすロックバンド……確か「THE J-GLIDE」とかいったか。
彼らではなく、DJブースに居座る男が今回の主催者だ。
マイクを片手に、隣で演奏するTHE J-GLIDEと共に観衆を煽りまくる。
純白のツナギに純金調チェーンネックレス、日替わりの奇抜なヘアスタイル……小麦色の肌と絶え間なく動き続ける口を持つ彼、ジャンルイジ・ペシーは、「ジジ」の愛称でこの世界を生きている。
今日のヘアスタイルには赤髪のアフロを選択したらしい。
《おいお前ら、ミラノは好きか? 好きなんだろ?》
「「「「オオォォーーーーッ!!!!」」」」
《なら後始末は徹底的にやるこったな。俺たちがミラノを蹂躙していいのはお日様が見てねぇ時だけだ。この俺、ジジとお前らの約束だぜ! 分かったな!!》
「「「「オオォォーーーーッ!!!!」」」」
彼らは政策の類に興味など持たないが、県警にはこのイベントを規制できない何らかの理由があることくらいは分かる。
しかし県警がストリートレースの検挙を停止したのは、ただ単に頭を悩ませているからではない。
ジジだ。
ジジの運営するストリートレースイベントを規制することには、メリットよりも大きなデメリットが伴う。
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