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彼のDJパフォーマンスはモラルの遵守を全面に押し出している。
とは言っても、開催は翌日が休日である場合に限る、タイヤ跡は消す、ゴミは拾う、カラ吹かしはしない、乱闘はしない……これらをいい例とした、小学校の校則よりも低脳な規則の羅列だ。
それでも雰囲気は一変するものらしい。
映画で見るストリートレースとは異なり、あくまで競馬だの競艇だのの雰囲気。
さらには自動車のカスタムパーツメーカーがここぞとばかりにデモカーの展示を行い、注目のロックバンドがレーベル公認で生演奏のライブを繰り広げる。
ストリートレースだけに留まらず、ジジのイベントは現代エンターテイメントの全てを網羅していた。
よってこの地をアミューズメント目的で訪れる者も多い。
現ミラノはこの“新しすぎる融合”が都市を活性化するという皮肉な情勢だ。
県警がちょっかいを出し辛い理由の一つがそれ。
今もこうして深夜に百人規模の大集会が開かれているが、皆楽しそうなご様子だ。
展覧されているチューンドカーを撮影する者、コーナーに居座ってドリフトショーを観戦する者、賭博に負ける者、勝つ者。
ブースの前で踊り狂う者。
センピオーネ公園という名所ゆえ県警の目が届かないわけがないが、右派の上層部は木綿のハンカチを噛み締めていることだろう。
地域住民もまたそうだ。
中にはこれが政府公認のイベントだと思い込んでいる者すらいる。
経済効果まで生まれてしまったこともあってストリートレース肯定派が過半数に達し、右派の一部住民は届かない叫び声を上げ続けているのだ。
だが、それもまたじき消えるだろう。
なぜ他の住民たちがストリートレースを肯定するのかに気付いて。
ジジのイベントがミラノにもたらす効果に気付いて。
そして、相手にされぬまま叫び続けることの虚しさに気付いて。
ミラノ市街地はもはや、ストリートレースのグラウンド・ゼロとでも言い例えられた。
曲を締めくくるクラッシュシンバルが鳴り響いた瞬間、パーチェから爆発のような大歓声が轟いたからだ。
《サンキュー、THE J-GLIDE! 期待通りの演奏だったぜ! ……さぁみんな、次はこっちにも目を向けてくれ。今日はオオモノのレーサーを呼び寄せた!》
「「「「オオォォーーーーッ!!!!」」」」
《ヤツの名はレオナルド・LM・クレンツェ!! さぁレオ、ステージに上がって来いよ!》
「もうここに居るぜ、ジジ」
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