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タムがこちらから見えない陰に入る度に肝を冷やす。気が気ではなかった。
「気配は弱まってるな」
悪寒は退いている。ケイはうん、と答えた。
「遠くに行ったのかもしれない」
うんうん、と生返事を返す。
と、タムが一度立ち止まり、再び歩みを進める。湖を迂回すると、
「森に……」
入っていった。その姿は木に紛れ、闇に溶ける。
「嘘だろ!?」
「わ、あ!ちょっと」
彼が身を乗り出したことで、台が大きく揺れる。
「何考えてあんなことを」
声にはさっきまでの不安に、苛立ちが混ざっている。
「確かに無茶だね」
「あの命知らず」
二人は口をつぐみ黒一色の森を見つめる。少しの風さえ吹かず、まるで時間が止まったようになった。
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