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ケイは目を伏せて、
「タムの様子を見てくるよ」
と言い切る。冷たい沈黙のあとに、
「……は?」
エディはそう声を発した。
「奴がいたら叫ぶよ。鐘を鳴らしてくれたらいい」
と言って、ケイは吊った大鐘から下がる紐に触れる。
「でも」
「危ないのは分かってる」
きっぱりとケイは言った。
「タムまで失うのは嫌だよ」
エディがつばを飲み込む音が聞こえた。
「だから、僕は行って……」
「待てよ」
今さら何なんだ、と苛立つ。
「タムの無事を確かめないと」
「待てって、おい」
「行かなきゃ……」
「あれを見ろ、馬鹿!」
その強い声に我に返ると同時に、地上からこちらに両手を振る影に気づかされる。
「あれ、は」
「タムだな」
エディが大きく手を振り返す。
「問題なかったらしいな」
彼が手を下ろすとタムは軽い足取りで湖畔を回り、集落に辿り着く。
「……そっか」
「そうだ」
「ごめんね、悪かった」
ケイは気恥ずかしくなって咳払いをする。
「お互い様だ」
彼は頷き、そう言う。
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