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思わず彼は苦笑を浮かべた。
見渡せば何もない。建物も人の姿も消え去り、森林だけがただ寂しく深い緑に生い茂る。
自らが壊した世界が今、たまらなく愛しく思えるのである。既に廃墟となって久しい足元の塔が、間もなく朽ちようとする肉体が、恋しい。
こんな皮肉があるだろうか。
彼は階の際に座り、かつての仲間たちを思い浮かべた。時に同じ目的を持ち、ぶつかり合い、すれ違った友はもういない。
失った友の名をそっと口にする。響きはわずかな余韻も残さず、空気に吸い込まれて消えた。そして、目を閉じる。
全ての終わりを見届けたはずだった。それを証拠に、この命はもう尽きようとしている。
彼は死の気配に身を委ねた。感覚が少しずつ揺らいでいく。
……コツ、
コツ、コツ。
物音に目を開ける。これは、足音?
彼は後ろを振り返った。
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