プロローグ

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   それでも、頼まれた男は不安を拭い去れない。  共に、個人事業主であろう二人。  連帯保証人を頼まれた男の工場は、どうやら経営は順調でありそうだ。だからこそ、男は彼に保証人を頼んだのであろう。  借用書の額面は、五百万円となっている。  経営は順調であっても、それだけの額の借金を背負うとなれば二の足を踏む。場合によっては、工場の経営が傾くとでも考えているのか。  そこに、保証人を頼まれた男の妻が顔を出す。 「いいじゃない、助けてあげなさいよ」 「いいのか、お前」 「いいも悪いも、あなたの親友じゃないの。何かの時には、私がやり繰りするから」  工場の経理は、妻が一手に担っているのであろう。  その言葉に背中を押され、男は借用書の連帯保証人の欄に署名捺印した。  それを受け、頼んだ男は涙を浮かべて何度も頭を下げた。  そして、それを大事そうに鞄に詰めると、足早に帰って行った。その足で、借金を申し込みに行くのだろう。
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