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季節はすっかり春めいて鳥がさえずり町中に桜が咲いていた。
人々は、そんな春の陽気に誘われ花見を楽しみながらすっかり浮かれていた。それは江戸城でも変わらず皆、一様に春の訪れを喜んでいた。この春の陽気は、常日頃、将軍職として張り詰めている吉宗の気持ちをも緩やかなものにし、吉宗は、御側御用取次役(おそばごようとりつぎやく)大目付である爺と城下の景色を楽しみながら談笑していた。
「殿、いい陽気になりましたな。ようやく朝晩の冷え込みも緩み過ごしやすくなりました。とにかく年を取ると冬の冷え込みは一層体に堪えますからな。何せ、朝起きても寝床から出るのに一苦労ですわい」
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