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「では、《お持ち帰り》はどうでしょうか? それでしたら何の問題もありません」
お持ち帰りも食べる前に店を出て行く気がするけども。
「お持ち帰りでお願いします」
「お持ち帰りですね。何名様ですか?」
「何名様? えーと二人ですが……」
「ねえねえ、せっかく来たんだから食べてこうよ」
確かに、こんな町外れまで来たんだ。帰ろうとした自分がバカらしく思えてきた
「やっぱり、ここで食べていきます」
「そうですか……。では、二名様お席まで案内させていただきます」
席につきメニューを広げると、聞き慣れない単語の数々。どうにもこれでは注文もままならない。
「明日、大事な仕事なんでしょう? 時間かけないで適当に注文しよ?」
「そうだな。そこまで大事な仕事ってわけでもないが」
周りを見渡してみると、ステーキを食べている客ばかり。そうだった。元々肉を食べに来たんだった。ステーキのミディアムを二つ注文した。
顎を手にのせこちらを見つめてくる彼女。
「ねえ、来週の日曜、私誕生日なんだ」
「知ってるよ。サプライズにしようと思ってたのに」
「覚えてたんだ。嬉しい」
見つめてくる彼女に、つい視線を外してしまう。
「そりゃあ、まあな」
その日にプロポーズしようと思ってますからね。
「お待たせいたしました、ステーキのミディアムです」
コトンコトン。皿が置かれた。慣れないフォークとナイフを握り、できたてのそれを細かく切断していく。
まずは一口。口に頬張った。
「……うまい」
とろけるような舌触り。意識を持ってかれそうなほどの口に広がるこの風味。生きていてこれほどおいしい物に出会えたのは初めてだ。
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