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目線を上げると、目を見開き口元の力が抜けた、驚きと幸せが混在している彼女の顔があった。
お互いに無言で次々に肉を掻き込んでいった。フォークが皿を傷つける音だけで会話をしているような不思議な感覚。
食べ終わって周りを見回すと、滑らかな手つきでフォークとナイフを操る人ばかり。やはり庶民の僕たちとは、漂う空気からして別世界の人だ。彼女もすぐに食べ終わり会計することにした。
「合計二千円になります」
なんだこの安さは。あのおいしさなら、さぞかし材料費がかかると思うが。
お金を払い、入り口近くのトイレを借りた。彼女は先に車に乗ってもらっている。
用を済ませドアを開けようとすると、カランコロン。とともに激しい足音と息遣い。
「友人に、ここのお店お持ち帰り無料って聞いたんですけど、本当なんですか!?」
「お金は頂きませんよ。《お持ち帰り》おひとり様でよろしいでしょうか?」
「はい! メニューはどこですか?」
「お持ち帰り一名様! お買い上げありがとうございまーす!」
店員は男に近づくと手で腰をつかみ、男を肩に担いだ。
「え、ちょっ、何してんの」
店員は店中に響く高らかな声で叫んだ。
「本店自慢の高級料理、新鮮な肉を仕入れました! 皆様ご注文は十分後に開始です!」
なんだこの店は。店内からは歓声の声が聞こえる。
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