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「ユア、本当に大丈夫?」
「ええ、お母様」
荷物を荷台に積み終え、それでもなお出発を渋るアルティシアに、ユアは肯いた。
「私はもう大丈夫です。お医者様も、そうおっしゃったでしょう?」
「ユア、しばらく様子を見て、本当に元気になったのなら……一緒に暮らそう」
「はい」
ディオロットがユアを抱きしめて、そう言った。
奇跡的に息を吹き返したユアを、両親は真っ先に占術師にみせた。
今まで何度占っても、二十歳までしか生きられないという結果が出ていたのに、今回、占術師はユアをみた瞬間、当惑の表情を浮かべた。
「闇の力が、強くなっております」
「というと……?」
占術師の言葉に、両親に緊張が走った。
「以前は、闇の力が死へと向かっていたのに対して、今はその闇の力が生へと引き上げています」
「……どういうこと?」
アルティシアが訊ねた。
「お嬢様は闇の力のお陰で生き延びている、ということです」
その結果を聞いていたユアは、死の間際に見た死神のことを思い出していた。
夢か幻かと思い始めていた、赤い瞳を持った黒い髪の死神。契約をしないかともちかけてきた、死神のことを。
「それでは、娘が死ぬことは……」
「死の影は、見えません」
占術師の言葉に安心した両親は仕事に戻ることになったが、ユアは大事を取ってしばらくは屋敷に残ることになった。
そしてこの日を迎えたわけだ。
「ユア、何か変わったことがあったら、いつでも連絡しなさい」
「はい」
「気をつけるのよ」
アルティシアが、後ろで控えているトマスに頭を下げた。
「二人とも、お気をつけて」
「トマス、ユアを頼んだぞ」
娘にキスをして、ディオロットとアルティシアは一抹の不安を残しながらも、屋敷を後にした。
遠ざかっていく馬車を見つめていたユアは、そっとため息をついて屋敷に入ろうとした。と、そんなユアにトマスが声をかけた。
「ユア、これ、受け取ってくれないかな?」
「え?」
ユアが眉をひそめてトマスを見る、怪訝そうな紫水晶の瞳は以前と何も変わっていなかった。苦笑したトマスが差し出したのは、蝶をあしらった、青みがかった紫の髪飾りだった。
「……これ」
専用の容器に入れられたその髪飾りは、一目で職人の仕事とわかる最高級の品だった。
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