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「少し遅れたけど、誕生日の贈り物」
ユアは少しの躊躇の後、それを受け取った。
「ありがとう」
「気が向いたら、つけてみて」
小さく肯いたユアに、トマスは微笑みかけた。
「それじゃあ、僕は帰るよ。近くにいるんだから、なにかあったらいつでも言ってきてくれてかまわないんだからね」
「うん」
馬に乗って去っていく金髪の青年を見送ってユアはそっとため息をついた。
ずっとユアに好意を向けてくれているトマス。そんなトマスに、今までユアはわざと突き放すような態度を取ってきた。それは自分に未来がないことを知っていたからだ。
しかし、こうして思いがけなく命をながらえた今、トマスとどう接すれば良いのかわからない。
トマスに難点はない。無愛想なユアにもいちいち優しく接してくれる。彼は貴族の出で、身分もしっかりしているので、ブルディオ夫妻も気に入っているのだ。
もしもユアが本当にこのまま健康に過ごせれば、今まで考えもしなかった結婚という話になることもありえる。
自分の部屋に戻ったユアは、ぼんやりと髪飾りを眺めていた。
各所に円弧と直線があしらわれた白を基調とした部屋に、金色の大きな柱時計や暖炉がある。南側の硝子扉からは、森を一望できる陽台に出ることができる。
無駄に広い部屋の隅には、豪奢な寝台があり、異国から輸入された黒い木の柱が目を引いた。
ユアはそっと自分の胸に在る月の石に触れた。本当は、十八を迎えることなく死ぬはずだったのだ。あの闇の中で。
全てを諦めていたはずだった。死ぬことは怖くなかったはずだった。それなのに、自分は死神と契約をした。
死の間際で、生きたいと願ってしまっていたのだ。
ユアは、そんな自分の願いが信じられなかった。あの時死んでいれば、何もかもが終わっていたのに。
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