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「これは私にとって、とても大切なものだからだ」
「この、石が……?」
「石ではない。これは、命の結晶だ」
思いがけない言葉に、ユアは息を飲んだ。
ずっとこの石のせいで長く生きられないのだと思っていた。これが闇の力の原因なのだと、勝手に思い込んでいた。それがまさか命の結晶だったとは。
「命の……?」
「そう、命の源となるものだ」
ユアはそっと自分の石に触れる。
「知らなかった」
「大勢の者が、その月を手に入れたいと思っているんだ」
「貴方も、その一人なの?」
「……そうだな」
ディアがユアの隣に腰を下ろすと、ブオがユアの膝の上からディアの元に戻った。
隣に座っているのに、ディアは全く気配を感じさせない。そこに確かに存在して、触れれば感じられるのに、そこにいるのが全く気にならないのだ。
「変なの」
「何が?」
「……なんでもない」
ユアは立ち上がって、部屋の隅にある本棚に向かった。本棚を埋め尽くすように並べられた無数の本から、一冊を選ぶ。そして陽の当たる場所に位置した卓子で読み始めた。
それは奇妙で穏やかな時間だった。視界にさえ入らなければ、死神がそこにいることを忘れそうになるのだから。
「ふ、良い度胸だ」
そう呟いたディアの声にユアは一瞥を向けるが、すぐにその視線は手元の本に戻される。
「だが、それでいい」
死神と悪魔と、そして少女の奇妙な時間はそうやって始まった。
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