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「ディアがどうした」
「は、はい、陛下の言いつけを守らず、人間界に向かったようなのです!」
鎌の恐怖が消え、安堵の表情で続けた家臣の言葉に男は盛大に舌打ちをした。不機嫌であることを隠そうともせず、顔を歪める。
「あいつは……こんな大切な時に、一体何をしている!」
「それが……、わかりかねます。ブオが一緒にいるのは間違いないようですが……」
男はため息をついた。
「まあ、いい。今に帰ってくるだろう。それよりも今は、この陶酔感に浸らせてくれ」
「かしこまりました」
深々と頭を下げて玉間を後にした家臣を見届けると、男はにやりと笑う。
「さあ、我が姫君、その顔を我に見せてみろ――……」
一際強くなる雨と、一向に鳴り止まない雷鳴の奏でる合奏曲を全身で感じながら、男はその時を、今か今かと待ってるのだった。
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