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第一夜 死神の契約
激しく降りしきる雨の中、崖に囲まれた一本道を馬が駆っていた。その背には、金色の髪が乱れるのも、最高級の天鵞絨の服が濡れるのも気にしない様子の青年がいた。
夜中だというのに、雨に霞む視界の中を青年は必死になって馬を駆る。その呼吸は、ひどく上がっていた。
しばらくして鬱蒼とした木々の向こうに見えてきた大きな屋敷が見えてきた。そこに、青年は急いだ。
滅多に人の足も届かぬような場所に建つ屋敷に着いて、息をつく間もおかずに青年は馬から飛び降りる。そして乱暴にその屋敷の扉を開けた。
肩で息をしながら屋敷に入った青年に、こんな時間にも起きていた屋敷の使用人が気づいて息を呑んだ。
「……トマス様!」
しんと静まり返った屋敷のあちらこちらから、すすり泣くような声が聞こえてくる。それは随分重苦しく、異様な雰囲気だった。
その重苦しい雰囲気に青年は顔をしかめて濡れた上着を脱いだ。そして使用人が差し出した織布で濡れた身体を覆った。
「……ユアは?」
低い声で青年が訊ねると、使用人は悲痛な面持ちで首を横に振った。
「もう、三日も意識が戻られません……」
「……くっ」
それを聞いた青年は、顔を歪めて目的の部屋へと走った。何人かの侍女が、慌しく部屋を出入りしている。
「ユア……っ」
「トマス……」
部屋に入ったトマスを迎えたのは、目にいっぱいの涙を浮かべた四十代半ばの女性だった。彼女は同じ年頃の男性に支えられながら泣いている。
「アルティシア様……」
女性の様子に、青年は言葉が詰まる。女性は嗚咽を漏らしながら、部屋の奥を見た。
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