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「私は君が欲しいんだ」
死神の言葉に、少女は言葉を失った。突如、死神の纏う雰囲気が変わる。ぞっとするような、冷たい闇をその身に纏ったかのように――。
「それに、君は生きたくないのか?」
「生きる……?」
少女は霞んでいく意識の中、生きるということについて考えた。
自分は死ぬ。死ぬということは生きているということだ。生きているから、死ぬ。だがしかし、少女には生きるという選択肢が与えられてこなかった。
必ず死ぬ、二十歳まで生きられない、それが少女に与えられた宿命。だから、生きることに対して希望を持ったことがなかった。
「いいのか、そのまま消えて?」
その生きるという選択肢が、今、この死の間際に与えられようとしている。耳に心地いい死神の声が、まるで魔法のように少女の心を犯していく。
「生きたくないのか?」
消えゆく意識の根底で、少女は願っていた。
願って、しまっていた。
「……生き、たい……」
真っ暗になる視界の向こうで、死神の赤い瞳が確かに笑ったような気がした。
誰かがすすり泣く声が聞こえる。一人だけじゃない、大勢の。
酷く曖昧な意識が急激に浮上して、自分を自分たらしめていく。そして、ユアはその紫水晶の瞳を開いた。
「ユア……っ!」
まるで幽霊を見たかのようなその叫び声に、ユアは未だ焦点の定まらない視線を向ける。自分の手を握って目を見開いているのは、トマスのようだ。
「ユアっ!」
「神様……っ」
母親の声と父親の声が続いて、ユアに二人が縋りついたのがわかった。幾分しっかりしてきた意識と視界に、ユアは身体を起こそうとする。そんなユアを、アルティシアが抱きしめた。
「奇跡よ……本当に信じられない……っ」
「お母様……」
父親であるディオロットも妻と娘を抱きしめて、歓喜の涙を流した。
「神よ、私はこの身を捧げても良い……! 本当にありがとう!」
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