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そんな、歓喜に沸いている人間達の様子を遠くから眺める赤い目があった。
器用に木の枝に座り、鎌を片手で弄んでいる死神の一つに結われた長い髪を、風が弄んでいく。激しく降っていた雨も、いつの間にか止んでいた。
「おい、本当にこれで良いのか?」
小さな羽音とともに、死神の前に茶色い影が現れる。それは、茶色い兎のような姿をしていた。背中に蝙蝠羽を生やし、長い耳の付け根に小さな角を生やした、金色の目を持つ兎。
「ディア、わかっているんだろうな、これからどうなるか……」
ディアと呼ばれた死神は、口元に笑みを浮かべた。赤い瞳が、妖しく光る。
「覚悟など、とうの昔からできている」
「ディア……」
その赤い視線が、目の前の屋敷の部屋を見つめる。そこで、家族と抱き合っている紫水晶の目を持つ少女――。
「これで〝月〟は私のものだ。あいつは〝月〟を手に入れるために、ありとあらゆる手を尽くそうとするだろうな」
ディアの言葉に含まれた憎しみの匂いを敏感に感じ取り、兎は黙ってディアの隣に腰を下ろした。
「ブオ、怖いのなら逃げても良いんだぞ」
ディアの言葉に、ブオと呼ばれた兎が鼻で笑ってディアを見上げた。
「誰に向かって口をきいている」
「ふ、私はてっきりお前が怖気ついたのかと思った」
ブオは呆れたように肩をすくめた。
「それならば最初からついてきたりしていない」
低い声で返したブオに、ディアは何も言わなかった。そして鎌を肩に担ぐと、軽い身のこなしで枝から飛び降りる。ブオもその後に続いた。
音もなく地に降り立ったディアの肩に、ブオが乗る。二人が空を見上げれば、雲の切れ間に真ん丸の月が覗いていた。
「私は彼女のためなら、世界をも敵に回す」
その月を見上げながら、ディアがそう呟いた。
赤く煌く真ん丸の月が、〝月〟を持って生まれた少女ユアの生誕日を、不気味に笑って見守っていた。
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