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もう深夜零時をまわってどのくらいの時間が経ったのだろう。
薄暗い道。
路地裏とはいわないまでも明らかにメインストリートではない。
その場所で。
出来るだけ車道の左端に寄せられ、路上へと駐車されたほぼ黒といえよう紺色の車。
車中。その窓の外にはささやかな茜色の光を灯す街灯。
その光沢に彩られ生い茂る緑に微かに違う色が混じる。逞しく生えたそれらの雑草を眺めながら。
ポケットに忍ばせた煙草を取り出す女。天笠涼子。(あまがさりょうこ)
僅かに色素が薄い黒髪をスッと左手で払い、そのまま両手を目の前中央へと寄せていく。
少し細めた大きな瞳でそこを見据えつつ、白魚のような指を動かした。
すぐに、キィンと鳴る音が辺りに短く響いて、銀色を鈍く輝かせたライターが揺らぐ赤い炎を灯してゆく。
口元にくわえたメンソールの煙草。顔を傾けながら自らの手で宿した炎へと近づけ、その先を灼熱で炙り。
同時に。
大きく息を吸い込み――やがて唇を尖らせた涼子は喉奥から紫煙を吐き出していく。
僅かに開けた、車の左ウィンドウ。その場に留まる事を許されていないように流れゆく白煙。
ゆらりと尾を引きながら、優雅に外へと流れていった。
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