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ひとしきり煙を楽しんだ彼女は退屈を持て余したように軽く欠伸をすると運転席の男へと話し掛けていく。
「あ~あ~。しっかし来ないね……。康介的にはやっぱり黒だと思う?」
「……それぇ、調べんのが今回、自分らの仕事っすから」
男は年の頃二十代の半ばくらいだろう。どこかの俳優事務所に所属していそうな目鼻立ちのクッキリしたなかなかの男前。
そのうえ、薄手のTシャツに張り付くような肉体。そこからにょきりとのぞく両腕は丸太のように太い。
だが、その見事な体躯とは裏腹に。こころもちとぼけた印象もあった。
そんなイメージを湧かせてしまうのが特徴のある喋り方と車中で行われている二人のやりとりだろう。
涼子が再び軽口を叩く。
「ホントにつっまんねぇ奴だなぁー。想像力もないとこの業界はやってけないよ~?」
「想像力っすか? 社長のはどうも妄想じゃないかなと思うんすけど?」
「も、妄想って……。あ、あんたねー」
「まあ、そんな社長も含めて自分は好きなんすけどね」
その時だった。
車中でやり取りする二人の脇をゆっくり通り過ぎてゆく人影。
鉄の板一枚を挟んで向こう側に漂う気配。
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