第一章 天笠涼子

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   三十分くらいだっただろうか?  深夜の都内を二台の車が、つかず離れずドライブしていく。  前を行く車の運転席ではターゲットの田辺がつけられている事に気付く様子もなく。  鼻の下を伸ばして、時々助手席のオンナに話し掛けている様子が見える。  やがて辿り着いたのは練馬区にあるマンション。立ち並んだコンクリートの塊を縫うように、平置きの駐車場。  流れるように車体を滑り込ませると、エンジンを止めた。  車内から降りてくる二人を既に車を降りてカメラを構えた涼子が再びフレームに納めていく。  まさか写真を撮られているなどと、頭の片隅にも過ぎらないのだろう。  談笑を交わしているターゲットの二人はそのままマンションのエントランスへと向かっていった。 「ビンゴ。間違いないわ、後は部屋……」  そう小さく呟いて、にんまりと顔を歪ませ。すぐさま表情をもどし、後を追う涼子。  涼子がエントランスに辿り着いたタイミングで、はかったようにオートロックを開くべく、鍵を差し込んでいるオンナの姿。  寄り添う二人が自動ドアを通るタイミングで接触するほどに近く。何食わぬ顔で一緒にドアを抜ける。
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