第一章 天笠涼子

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   エレベーターの扉が開くのを先にその階に到達していた涼子は、身体を潜めた非常階段からそっと眺め、二人を確認する。  ひとつの扉の前で止まって。オンナが鍵を取り出す。  それらの行動は、ここが彼女の住まいであることを指し示していた。  そしてその事は考えるまでもなく二人の関係が深く長いというのを物語っている。  どう考えても、一回や二回の関係。ましてや一見で客を自宅に呼ぶなど有り得ないからだ。  そう涼子が頭を捻るうちに二人は部屋の中へと消えていった。  それを確認して。  すかさず隠れていた階段から身体を踊らせ、今まさに吸い込まれていった部屋のナンバーを確認する。 「707号」  そっと取り出した、手元のICレコーダーにその番号を囁くともう用はないとばかりに階段を下っていった。
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