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「ただいま!」
玄関の鍵は開いていた。きっと、ママがもう帰ってきているのだろう。
リビングのドア越しに、パパとママが座って話しているのが見えた。
まだ菜々が帰ってきたことに気づいていないみたい。
「パパ、菜々にちゃんとお金渡したの?」
ママの優しい声が聞こえる。
「あぁ、朝渡したよ」
パパも今日は穏やかな声だ。
大丈夫、ただ忘れてただけなんだ。
しかし、ドアノブに手をかけた時、今度はママが大きな声で、
「じゃあ、あなたは今日なんのお金でパチンコに行ってたの!?」
菜々は、さっと血の気が引いた。
すると案の定、ドンと鈍い音が響いた。
ドアのガラス越しに見えるママは、地面に倒れていた。
「だから渡したって言っただろ。
菜々が帰ってきたら聞いてみろよ。
だいたいお前が俺にそんな偉そうな…」
もう、聞いていられなかった。
「ただいま!」
菜々はドアを思いきり開けた。
すると、パパは急に菜々の方に振り返って、また穏やかな声に戻った。
「お帰り、菜々。
お金はちゃんと払ってきたか?」
ママはこっちを向いて何か言っていた。
でも、菜々はなんて答えたらいいのかわからなかった。
パパを怒らせない方法、ママをこれ以上傷つけない方法、一生懸命頭の中を探ったけど、全く言葉が思いつかない。
そうしてうつむいていると、
「菜々、まさか使ったのか?」
と、パパが低い声になって言った。
「使ったのか?」
そう言いながら、今度は菜々の方へと向かってくる。
恐かった。後ろのドアは開いたままだった。
そして、もう気づいたら菜々は外に飛び出してしまっていた。
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