プロローグ

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人波をくぐり抜け、電車を乗り継ぐこと約30分。 辿り着いた駅の目の前のコンビニこそ、毎週お世話になっている『エイトトゥエルブ』。 「ぃらっしゃいましぇー。今日も来ると思っていましゃたぁよぉ」 ほとんど毎日夜勤で入っている、この滑舌が異常に悪い店員、木村さんとも、すっかり顔馴染みになってしまった。 軽く受け流していつものポジションにつき、チョップを開く。すると、店長のことなどどこえやら、俺はすぐにすっかり漫画の世界へと入り混んでいた。 やがてしばらく経ち、はっと気付いた頃に全ページを読み終えてしまっていた。 昔は合間合間に耳に入っていた木村さんの"しぇ"に気を散らされることもあったが、最近ではなんのことはない、心地よいBGMにまで聴こえるようになっている。 しかし、普段ならこのまま帰るところなのだが、俺はなんとなくトイレに行きたくなっていたのだ。 エイトから家まではほんの一瞬なのだが、別に我慢する必要などないであろう、俺は木村さんに一声かけてから、男女共用の真っ白いドアノブをそうっと引いた。 手入れは行き届いており、ほとんど汚れがない洋式便所。壁も床も全面が青いタイルで囲まれており、よくも悪くもトイレ感を存分に漂わせているトイレだ。 リュックを背負っていたので、躊躇しながらも地面に置いてから用を足す。さっと水を流してしっかり手を洗い、底をちらりと確認してからリュックを背負うと、俺は颯爽とトイレから出て、再びチョップを手に取り、なぜか嬉しそうな顔をしている、まぁいつもなのだが、木村さんの立っているレジへと向かった。
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