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ところが、現実とは酷く惨い物であった。
「キャッ!」
目の前から聞こえてくる甲高い声と共に、自分の胸元に与えられるか細くも痛い衝撃。
わけもわからぬまま、次に視界に飛び込んできた光景はベッドの足の金属だった。
周りから見れば凄く滑稽なまでに俺は驚いた表情をしていただろう。
それ以前に、自分の現状を全くを持って把握できていない。
数秒置いて理解できたのが、俺は後ろに仰け反り倒れたという情報のみだ。
そして、その元凶は麻友であることもまた確かだ。
いきなり抱きしめたので驚いてしまった。
そんな単純な事を思って再び俺は立ち上がった時には全てを悟った。
そこには怯える表情の麻友。
シーツを体に手繰り寄せ、明らかに俺を警戒している。目には涙が溜まっていて、手は震えている。ベッドの俺から一番遠い対角線上に体を縮こまらせ、こちらを見つめる。
「えっ…。麻友?」
頭が真っ白になった。
何もかもが崩れる音が頭の中で響いた。
もう一度触れようと近づいた時に、彼女が明らかに他でもない俺に対する警戒心を向けている事に気がつく。
そして
俺が誰か理解できていない事も。
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