ワスレナグサ

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「麻友!俺だよ!俺!将慶だよ!」 まるでドラマのワンシーンを切り取ったように、ありきたりなセリフを並べる事しか出来ない。 何かの間違いだ。そうに違いない。 俺は再び半歩歩みを進める。 「やっ!ち、近づかないでください!!!」 これまで聞いたことない麻友の威嚇する声に俺は何か引き裂かれるような、そんな感覚に襲われた。 立っているのがやっとで、ふと体の緊張を解いてしまえば、その場で、それこそ糸の切れた操り人形のように倒れてしまうだろう。 本来なら、麻友が目を覚ましたことに涙を流して喜ぶ、そんな甘い本編であるはずの俺のストーリーは路線を変えて劇的で悲劇的な末路を辿りつつある。 この時に気がついた。俺は人生で一番の不幸者だと。その引き金を引いたのも俺で、全部俺に返ってきただけなのだ。 「ご、ごめん…。医者呼んでくるよ。」 無理に作った笑顔も、その耐久力は無いのと大差なく、逃げるように部屋を出た。 もう、麻友に背を向けた時には俺は俺で無い、そんな錯覚やある種脅迫概念に相違ない感覚であったに違いない。 そんな俺の後ろ姿を麻友はどんな表情で見守り…いや、今は警戒しているのだろう。 きっと俺は今の彼女の世界では一番の要注意人物にリスト入りしただろう。
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