701人が本棚に入れています
本棚に追加
時間も忘れてお互い海水を掛け合って、笑いあって、すっかり時間も過ぎた。
疲れ果てた俺らは、海岸近くの岩の上に座った。
本当に純白な肌の持ち主の彼女は、黒い髪が余計に際立つ。
容姿端麗、この言葉で飾るのにはもったいないくらい。
二人で地平線の彼方を眺めた。
この地平線ってどこまで続くんだろう。
そんな事を考え始めても霧がない、初夏の太陽の下。
ホント、俺ら2人がちっぽけに思えてくる不思議さ。
「あっ、この花綺麗!」
すると麻友は自分の脇にあった花を見つけた。
一輪の、細々と強く、蒼く太陽のように燃えるようにそびえ立つ花…。
「この花は…。」
麻友はそっとそれを手に取った。
優しく根元から。
「ワスレナグサ…だよ、きっと。」
と珍しく俺が知識人のような口回し。
高校の時に教科書に載ってあった文を思い出した。
戦に行く若い夫の為に、妻は自分の事を忘れないでほしい、という想いを込めて夫に託した。結果としては、夫は敵陣に突入するも切られ…という話ではあった。
「ワスレナグサ…?」
「ああ、『私のことを忘れないで』っていう…お守りみたいなものかな?」
「ふ~ん…。」
それを聞くと、大事そうに両手で包み、「お守り」と可愛らしくつぶやく。
それを見て俺も嬉しく思った。
最初のコメントを投稿しよう!