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笹崎の小さくなる背中を見送る事しか出来なかった。
心の底から震えるような恐怖感と、思いっきり地面を叩きつけ、いっそのこと、この悪夢すら粉々に壊してしまいたいほど苛立ちに苦しんだ。
時間が経って冷静になるほどにわかる、今の危機的状況。
麻友の記憶を戻してしまえば、別れる事となり、そのままでも笹崎との奪い合いになる。
笹崎が問いかけた、麻友が今でも俺の事を好きなのか…。
その言葉が今でも俺の足元にまとわりついて前に進ませてくれない。
思わず、目を背けてしまいたくなる現実だ。
それでも、俺は麻友の記憶を取り戻して別れる道を選んだ。
当然だ、理由なんていらない。
俺は立ち上がった。未だに強烈なインパクトのある映画を観た後のように、先ほどの気迫ある笹崎の表情がリアルに脳内に自動再生される程に気にしているが、悩んだところで一向に状況は良好に向かわない。
考えるより先に再び麻友の部屋へと足を向けていた。
笹崎との第二ラウンド開始のゴングが鳴って、先制攻撃を喰らったのだ。
が、しかし、受けた勝負は真っ向から向かわなければならない。
今度こそ、完膚なきまで圧勝、自他共に認める麻友のパートナーになるために。
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