夢恋

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病院もしばらく経つと退院できた。 麻友が記憶を失い、途方に暮れたのはもちろん俺だけではない。 由紀も麻友の両親も、皆同じように涙を流し崩れてしまった。 そんな状況を見て、俺は何て言葉をかけるべきか、その前に、軽々しく言葉をかけていいのか悩んだ。 その都度、こんなにも日本中から愛されている彼女よりも、よっぽど俺が身代わりになるべきであったと自分を責めてしまうのだ。 事故にあった、というのはまだ序の口であり、本当の意味での闘いは今から。 気になる芸能活動だが、麻友が記憶を失ったという事は世間体にまずいので、マスコミ等に対し一切情報の漏洩を防ぎ、これまで通りを装う事にした。 こんなところで運が良く、麻友は表立って喋るのが苦手だから、バラエティではだいたい喋らないので、どうにかこうにかやり過ごせそうだ。 問題の音楽活動は極力時間を削り、記憶の修復に重荷を置く方針で固まった。 そんな話をしたのも山崎先生で、彼は今俺をどう思っているのか気になり、それでも俺に懇切丁寧に今後を説明してくれたことが複雑だった。 笹崎が何故麻友の記憶が無くなった事を知っていたのかは依然気がかりだが、競争という以上、先手必勝。 とは言うものの、再び真っさらなキャンパスから…つまり0からのスタートは、やはり長く時間を要するだろう。 だが、期限は半年。
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