猛と圭斗

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その時、六時の下校を知らせる放送と音楽が流れだした。 早くここから、この教室から、 …神谷圭斗の手から 逃れ、外へ出なけば行けない。 だけど、私はさっき神谷君から放たれた言葉に捕らわれ、またもや動くことが出来ないでいた。 「神谷…猛…」 私は猛先輩の名前を口から思わず零す。 「…ふ、猛の名前は平気でも、俺の圭斗の名前は口にするのも嫌なわけ?」 「え…?」 「あいつのどこがそんなにいいの?顔?」 「ちが…」 下校を促す音楽は更に音を増しスピーカーから鳴り響く。 耳に嫌でも流れ込むそのメロディーが私の思考の邪魔をする。 …神谷君の言っている意味をうまく呑み込めない。 「俺、そんなに神谷猛に似てる?」 …似ているかもしれない。 けど、 似ていない気もする… 「桃花… 俺の事、猛と思ってない?」 「え?」 「俺の中に… 猛を探してるでしょ?」 「!!」 だってそれは… 「あなたが! 猛先輩の名前を出してヒミツって…」 「違う。 その前から…会った時から俺を猛とダブらせて見てる」 「ッ!」 私が神谷君を見ていない? 神谷圭斗を通して私は 神谷猛の幻想を…見ている…?
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