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『もしもし』
「もしもし、叔父さま?」
『久しぶりだね、京香』
「ご無沙汰しています。今お時間よろしいですか?」
『ああ。京香から電話なんて珍しいね。どうかしたかい?』
「実は……ちょっと叔父さまのお力をお借りしたくて……」
『私の? 兄さんでなくて?』
「はい。叔父さまにお願いしたいんです」
『そうか。仕事で何かあったのかい?』
「ええ……できればお会いしてお話ししたいのですけれど……」
『ああ、わかった。調整でき次第、また連絡を入れるよ』
「お願いします。なるべく早くだと嬉しいです」
『はは、わかってるよ。私も久々に京香の顔を見たいからね』
「ありがとう、叔父さま。私も楽しみにしていますわ。夜分にすみません、おやすみなさい」
『ああ、おやすみ』
穏やかで優しい叔父の声に少しだけ癒されながら、私は電話を切った。
すぐさま自宅へ帰ることも考えたけれど、まだ腹の虫は納まっていない。
このまま帰れば両親との食事に間に合ってしまうだろう。
そうなれば、はずみで両親に今回の件を察知されてしまうかもしれない。
仕事のことは叔父がいてくれさえすれば、何とでもなる。父の耳に入れるほどのことでもない。
それに、気遣い屋の母に心配をかけてしまうのも気が引けた。
どこか、時間を潰せる場所は……と考えた時に、一軒のバーを思い出した。
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