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「こんばんは」
「いらっしゃいませ」
いつも通りに静かなバーには数名の客がいた。
二人組ばかりで、小さなソファ席でゆったりとお酒を楽しんでいる。
私は先客のいないカウンターに進み、スツールに腰をかけた。
「いらっしゃいませ、御園様。ご注文、お決まりでしたらどうぞ」
「シャンパンか白のスパークリングワインを、グラスで」
「銘柄はいかがしましょう?」
「そうね……甘めのものを選んでくださるかしら」
「かしこまりました」
恭しく丁寧なお辞儀をしたバーテンダーに、そっと微笑み返す。
ここは叔父の行きつけのバーだ。
確か、二十歳になったお祝いに連れて来てもらったのが初めてだった。
『京香ももう大人だ。お酒の飲み方も覚えなくてはね』
そう言った叔父のエスコートで訪れた場所。
それまでに何度も参加してきたパーティーとはまた違った空気と、大好きな叔父に大人として認められた喜びに、ドキドキしたのを覚えている。
たくさん並ぶお酒のボトル、その味と特徴を教えられた。
きちんと注がれたビールのおいしさ。
混ぜ合わせる度に新しい味を生み出すカクテル。
叔父が好む深く香り高いウィスキー。
どれもおいしくいただいたけれど、私が夢中になったのはワインだった。
『兄さんと一緒だね』なんて、叔父が苦笑していたのを思い出す。
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