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「お帰り、御園。ちょっと仕事の話で白熱しちゃっただけだよ。なあ、お嬢さん?」
「……っ」
どうして。
どうして、そんな嘘がすらすらと吐けるの。
私の激高も何もかも、なかったように振る舞えるの。
私は取り繕うので精一杯だというのに。
男の言葉に「そうなのか?」と叔父は首を傾げて席に着いた。
「また佐川がおかしなことを言ったんじゃないのか?」
「何だ、酷い言われようだな」
「君は口が過ぎるところがあるからね。昔から誤解されやすいタイプだったろう?」
「どうだったかな。昔のことなんて覚えてないよ」
いつの間にか緊迫した空気は霧散していた。
彼らの親しげな空気のおかげというべきか、むしろそのせいだというべきか。
誤解でもなんでもなく、佐川という男は私を酷く侮辱したわ。
それなのに何、この場の空気はまるで、この男が握っているみたい。
叔父との仲は私の方が深いはずだわ。
これまで何度も親身になってくれた。
叔父は私の味方だと思える。その確信はある。
それなのにどうして?
私が何を訴えようと、彼らの関係はきっと、変わらないものなのだと感じてしまうのは。
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