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いたたまれなくなって、私は鞄を手にした。
もうこの場にいたくはなかった。
「どうしたんだい、京香?」
「……ごめんなさい叔父さま、帰ります」
軽く頭を下げると叔父は戸惑ったように言う。
「え? なんでまた急に……話もまだのはずだろう?」
「っ……いいんです、また改めます」
言葉に詰まったのは、今日果たせなかった思いが胸を突いたからだ。
話。叔父にしたかったお願い。
私の現在置かれている状況。理不尽な立場。
奪われたもの。復讐。報い。
訴えたかったすべては、この場にいる男のせいで無に帰した。
「……では、失礼します。叔母さまにもよろしくお伝えくださいね」
叔父の方にだけにこりと微笑むと、彼は「ああ……」と漏らしてから表情を曇らせる。
「京香。本当に、大丈夫なのかい?」
何のことかはわかる。
叔父の気遣いには感謝したいと思っている。でも。
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