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勤め出すようになってからは、一人でも来るようになった。
実家住まいの私には、こういう場所が必要だと実感したのだ。
仕事でストレスを感じた時。
恋が終わった時。
両親と喧嘩した時。
『帰りたくない』気持ちをそっと受け止めてくれる、貴重な空間。
ここはすぐに、お気に入りの場所になった。
「お待たせしました」
柔らかな声に顔を上げると、目の前にはフルートグラスが届いていた。
細かな泡がしゅわしゅわと、のぼってはじける。
「……いただきます」
誰に言うでもなく呟いて、グラスを手に取る。
ひんやりとしたガラスの感触。力を入れたら折れてしまいそうな繊細さ。それを口元へ運び……黄金色の液体を喉へと流す。
……ああ、おいしい。
ほうっとひと息吐くと、バーテンダーが尋ねてきた。
「お気に召しましたか?」
「ええ。完璧よ」
「ありがとうございます。どうぞ、ごゆっくり」
穏やかな笑みと共に、彼は私のテリトリーから外れる。
私はもう一口、シャンパンを含んで微笑んだ。
心の刺が少しずつ溶解していく場所。
ゆっくり一人になれる場所。
私が私に戻る場所。
この時間と空間は、私にとってかけがえのないものだわ。
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