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それはとても、人の良さそうな笑みだった。
けれど。
おさまっていたはずの激情が、ふつふつと滾り始める。
昼間。
この男は羽村澪の隣でずっと彼女を気遣っていた。
私の発言に口を挟み、彼女をかばった。
神谷先輩に糾弾される私を目の前で見ていた。
憎い敵、+Dの男。
そんな彼が何故ここに。
怒りに拳を握りしめる私のことに気付かない様子の男は、私の傍に寄って来た。
「隣、いいかな?」
「……いいわけがないでしょう!?」
気の抜けた簡単な誘い言葉に、私は思わず彼を睨んだ。
私の大事な空間が、汚されていく。
一気に空気が濁っていく。
そんな気がしたのだ。
隣に座ろうとするなんてどういうつもりだ。
不快なんてものじゃない。
せっかくの気分転換が台無しよ。
私は鞄を引っ掴み、佐川と名乗った男の前に立つバーテンダーに「お会計を」と伝えた。
なのに。
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