《5》

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  それはとても、人の良さそうな笑みだった。 けれど。 おさまっていたはずの激情が、ふつふつと滾り始める。 昼間。 この男は羽村澪の隣でずっと彼女を気遣っていた。 私の発言に口を挟み、彼女をかばった。 神谷先輩に糾弾される私を目の前で見ていた。 憎い敵、+Dの男。 そんな彼が何故ここに。 怒りに拳を握りしめる私のことに気付かない様子の男は、私の傍に寄って来た。 「隣、いいかな?」 「……いいわけがないでしょう!?」 気の抜けた簡単な誘い言葉に、私は思わず彼を睨んだ。 私の大事な空間が、汚されていく。 一気に空気が濁っていく。 そんな気がしたのだ。 隣に座ろうとするなんてどういうつもりだ。 不快なんてものじゃない。 せっかくの気分転換が台無しよ。 私は鞄を引っ掴み、佐川と名乗った男の前に立つバーテンダーに「お会計を」と伝えた。 なのに。 .
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