第1話 

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『おかえりなさい。そらちゃん』 ランドセルから鍵を取り出していた時だった。 隣のお兄さんが、誰かと手を繋いで帰ってきていた。 いつもタイミングよく声をかけてくれるから、 もしかしたら私の事、見ててくれたのかもしれない。 『僕も用事が済んだらすぐに喫茶店に行きますよ』 そう言って、女の人を自分の家の玄関に招いた。 いつも良い香りがして、 優しくて、綺麗で、 ほわんとしたお兄さんが好きだった。 でもいつも隣には誰か女の人が居た気がする。 同級生だったり年上だったり、年下は居なかったな。 『キスしようよ』 そう言って甘くねだるお兄さんは、私の知らないお兄さんで、 私には絶対踏み込めない領域だった。 『そら、お隣のお兄さん、婚約者連れてきたみたいよ』 私が大学最後の年だったはず。 夏休みにたまたま帰った時だった。 10歳は年上ぐらいだろうグラマーなおばさんをお兄さんは家に招いていた。 真っ赤な唇、馬鹿みたいに開いた胸元、大きなサングラス。 あんなおばさんを、お兄さんは抱くのかと思うと嫌悪感しか出なかった。 響に出会ったのは、この失恋の日の海だった気がする。
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