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『おかえりなさい。そらちゃん』
ランドセルから鍵を取り出していた時だった。
隣のお兄さんが、誰かと手を繋いで帰ってきていた。
いつもタイミングよく声をかけてくれるから、
もしかしたら私の事、見ててくれたのかもしれない。
『僕も用事が済んだらすぐに喫茶店に行きますよ』
そう言って、女の人を自分の家の玄関に招いた。
いつも良い香りがして、
優しくて、綺麗で、
ほわんとしたお兄さんが好きだった。
でもいつも隣には誰か女の人が居た気がする。
同級生だったり年上だったり、年下は居なかったな。
『キスしようよ』
そう言って甘くねだるお兄さんは、私の知らないお兄さんで、
私には絶対踏み込めない領域だった。
『そら、お隣のお兄さん、婚約者連れてきたみたいよ』
私が大学最後の年だったはず。
夏休みにたまたま帰った時だった。
10歳は年上ぐらいだろうグラマーなおばさんをお兄さんは家に招いていた。
真っ赤な唇、馬鹿みたいに開いた胸元、大きなサングラス。
あんなおばさんを、お兄さんは抱くのかと思うと嫌悪感しか出なかった。
響に出会ったのは、この失恋の日の海だった気がする。
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