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就職してから、この町には帰ってきていなかった。
海がどこからでも見える、潮風漂う、町。
都会と違い、家ばっか並び、駅前ぐらいしか買い物できる所は無い。
同じような家ばかり並び、つまらない光景に飽き飽きしていた。
両親は、二人揃って医者で、隣町の病院に通う。
ほとんど帰らないか帰っても寝てた。
ならもっと近い場所に家を建てれば良かったのに、安さに釣られたのか、長閑な田舎に憧れたのか。
私の昔の思い出は、潮風の香りに、静かな家、
そしてお兄さんと花。
いつもがらんとした人が居ない花屋。
お兄さんも、花には目もくれず家に入っていった。
時には、風に落ちた花びらを踏みつけながら。
『そらちゃんは、そのままで可愛いよ』
歯が浮くような甘い台詞も、お兄さんが言えば全然可笑しくない。かっこよかった。
人より少し、目付きが悪くて、
人より少し、人見知りで、
人より少し、背が高く足が長くて、
人より少し、顔が小さく目が大きくて、
遠巻きに見られたり、可愛いと言われたり、
なかなか打ち解ける相手ができなかった私には、
優しくしてくれるお兄さんの存在は大きかった。
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