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「いらっしゃいませ。此方に座って下さい」
10時の開店と共に現れたのは、髪を後ろに三つ編みで束ねた神経質そうな女性だった。
乱れもないまっすぐな三つ編み。真面目そうな、セーターにロングスカート。牛乳瓶のフタみたいな眼鏡。
お兄さんは、『クライアントは結婚式を控えて神経質になっているから、接客は僕に任せてね』と言っていた。
ザッ
ザッ
なので私は店の奥、リボンや段ボール、雑誌や紙袋などが置かれた部屋で薔薇のトゲをとる作業をしている。
トゲ取り器は、大きなホッチキスみたいな形で、
薔薇の上を持って押さえ、下までザッと振り落として削いでいく。
何本か終わったら、水につけて取り残しを固く絞った雑巾で擦り落とす。
……意外と力が要るから肉体労働なんですが。
「そら。ごめんね。助かるよ! 後は大丈夫だから」
お兄さんがファイルされた資料を取りに来た。
申し訳ない顔は、何だろなんか母性心を擽る。
……これは、女はお兄さんに騙されるわ。
「外、看板出してきてあげるよ」
レジの横にある看板を見て、言う。
「本当にありがとう」
極上の笑顔。
こりゃあ私も騙されそう。
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