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煙草の匂いをかき消すように、プチギフトのハートの飴を舐める。
――潮風が気持ち良いわ。気持ち良すぎて鳥肌が立つ。
元カレの響にも、この結婚式場の話、したんだよね。
響はたまたま写真集の撮影にこの町に来てただけ。
その時に声をかけられて、遠距離で付き合って……。
だから言えない。
あいつが私から10万借りたまま逃げてから、音信不通になった事を。
ホント、別れ話さえしてない最悪の結末だわ。
格好悪すぎて柚にさえ言えない。
「で、なんで仕事場がつぶれたんだっけ? なんか豪華な2階立ての歯科医院だったじゃん。オフィス街の」
漸く煙草を吸い終えると、ジリジリと灰皿に押し付けながら言う。
「ああ。院長がさぁ~~」
私もブーケをベンチに投げ捨てながら、立ち上がり、話を続ける。
……その時だった。
「お嬢さん、忘れ物ですよ」
ちょっと鼻につくような甘い声で呼び止められた。
真っ赤な何十本もありそうな薔薇の花束を持っているこの男の人に。
タキシード姿に、髪をワックスで流し、手には白の手袋。
甘い香りは香水かな?
「このブーケ、忘れてますよ」
そう言われて、私はその男を見上げた。
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