第1話 

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ない。 無い。 無い無い無い無い無い無い無い無い無い無い。 一体これは何? 意味が分からない。 柚にも電話が繋がらないし。 さっきのおにいさんに言われた通り、家の向かいにある『Fiore』に向かう。 煉瓦作りのアットホームな喫茶店で、ハーブや花が咲き乱れ、窓枠まで蔓が侵入して来ている。 看板も無いし窓も閉じてるし、地元の人じゃなければ喫茶店だと気づかないかもしれない。 夜はbarになってたなんて知らなかったし。 カランカラン 今時、自動ドアでもなく、ドアについている鐘が鳴る喫茶店。 淡いオレンジ色の照明に、丸いテーブルの中央には可愛らしい薔薇の花が飾られている。 「いらっしゃい」 バーカウンターでは、バーデンダーがグラスを磨いている。 赤いフレームの眼鏡に、後ろにきっちり縛った髪。 目元はやや年齢を感じさせる皺があるが、それが色気を漂わせている。 って分析は今はいいの! 緊急事態なのに! 「ちょっと! 私の! 私の家が無いんだけど!!」 面を指差して、大声で捲し立てた。 そう言うと、そのバーデンダーは目を見開く。 「……そらちゃん?」
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