第1話

6/14
前へ
/79ページ
次へ
「一人だよ?真智は、今仕事中?」 遠くに聞こえる水音。でも、あんな小さな音、携帯は拾ってくれないはず。 『うん。でも、もう少しで終わる。』 本当は、真智のスケジュールなんて把握してる。どこでやってるのか、何時に終わるのか。大体のことは、知ってる。 「もうすぐ、終わるんだ?」 知っていて、聞き返す。‘うん。あと1時間くらい。何で?’真智の、明らかに何かを期待した声。少し、声が高くなる。それが、あからさまで可愛くて、真智の望むとおりの言葉を返したくなる。 「ウチ、来いよ。夕飯、一緒に食おう。待ってるからさ。」 水音が、止んでる。 ペタペタと近づく足音。 俺は、ドアに顔を向けて、入ってきた清香に、‘シィ’っと、自分の口に指を当てることで示した。それで、清香は全てを把握してくれる。
/79ページ

最初のコメントを投稿しよう!

36人が本棚に入れています
本棚に追加