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律也は瓶で殴られてから明後日の方向を見ていたが、目をゆっくりと少年の顔に向けた。すると、律也は目を丸くした。二人の少年は瓜二つであった。
「俺は桐生舞牙(きりゅう まいが)。そしてこっちは桐生彩牙(きりゅう さいが)。見て分かるように俺達は双子なの。お兄さんの事も教えて?」
舞牙と名乗った少年は女子の様に可愛らしく上目遣いをした。
「俺は野町…」
律也は名前も告げ終えずに地面に倒れた。
「貧血になっちゃった。サイさん、運ぶの手伝って?」
「俺達二人で運べるのかよ?」
「店すぐそこだし大丈夫だよ」
桐生双子の声が徐々に遠くなり、律也は遂に意識を手放した。
律也の16歳の誕生日の日、母は突然墓参りに行きたいと言った。律也は生まれてから一度も墓参りをしたことがなかったので、是非行こうとそれにのった。
最寄りの駅前のバス停留所からバスに乗り、暫く揺られながら座席に座っていた。乗り込んだ直後は店頭があったが、それも徐々に無くなり家々も少なくなった。代わりに車窓には青々と生い茂る木々が映った。
「すみません、此処で降ります」
母が運転手に頼み、バスから降ろしてもらった。
「母さん、こんな所にお墓なんてあるのか?」
しかしながら、母は答えずに歩き出した。律也は胸に何かが引っ掛かる感じがした。
何も話さずにひたすらと歩き続けると、母は突然立ち止まった。
「やっぱり帰りましょう」
母は律也の目をしっかりと見て言った。律也は彼女に圧倒され、何も言うことが出来なかった。
「私にお参りをする墓なんてないのよ。だって私、肉親がいないから」
律也は自身の胸から引っ掛かっていたものが外れ、痛みを感じた気がした。
「母さん、孤児だったのか?」
「そうよ。だから学生時代は虐められていたわ。親との写真が無いのは勿論のこと、親の顔すら知らないわ」
母は俯いた。俯いた体からは小さくも嗚咽が聞こえた。律也は自然と彼女の小さな背中に腕を回していた。
「母さん、ずっと一人で耐えてきたんだな。御免、気づいてあげられなくて。そして、有難う」
律也の胸の痛みはいつの間にか消え、優しく撫でられた感じがし、律也はくすぐったい気分になった。
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