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その表情は今まで見たことが無いほど、穏やかで柔らかい。
タカヤの笑顔に胸が痛んだ。
もうすぐ逢えなくなるのに、そんな笑顔を見せないで欲しかった。
姉の気持ちを知ってしまっても、タカヤの傍に居られるほどあたしは強くない。
日本酒を飲むペースが早くなったのは、きっとその事を忘れたかったから。
「ナツ、今日はそこまで。少し呑み過ぎじゃないか?」
タカヤにひょいとグラスを取り上げられて、困ったように微笑むその瞳に見詰められた。
ああ、本当だ。
少し飲みすぎてしまったかも。
今タカヤに『好きだ』と伝えたくて、仕方が無い。
でも、伝えてしまえば、タカヤはあたしを送り届けるだけで、帰ってしまうだろう。
どうしても
最後にもう一度だけ、タカヤに触れて欲しいから。
あたしは自分の想いに鍵をかける。
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