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原稿データを印刷所に送り、版を組んでもらって一度プリントアウトしてもらった。
印刷所からは文庫のフォーマットで見開き2ページに印刷されたものが届く。
それに校正箇所を赤書きして、また印刷所に送り返す。
そして、向こうのデータを手直ししてもらうのだ。
それを場合によっては何回か繰り返す。
もちろん、まどかに書き直しを依頼することもあり得る。
面倒くさいが、これが通常だ。
俺が校正している間、編集長は自分の席で、その初稿のコピーを読んでいたが、
「井上!」
「はい?」
呼ぶと同時に俺のすぐ側にやって来て、
バンバンバン!
と、俺の肩を叩いた。
「痛ったぁ~。何するんですか」
「いい!これ!いいな!」
手に持った原稿の束を指差した。
そっちを叩かないのはさすがか。
「当たり前でしょ?あの遥まどかですよ?」
「いやぁ、正直俺は、まだここまで書けるとは思ってなかったんだよな。それどころか、期限に間に合うかも疑ってたからさ」
「確かに……」
「お前がクビになるのが忍びないと思ってたんだよ」
「あのぉ……本気だったんですか?」
俺が編集長をジト目で見ると、彼は「まあまあ」と、片手で抑えた。
「そうですね、編集長の言ったとおり、ネタの問題だけでしたからね」
「ああ、描写力はさすがだな」
「でしょ?」
「そうだな」
編集長はニヤッと笑った。
そして、
「すると……」
そう言って俺を見た。
「すると?」
「四季賞だな」
彼は真面目な顔で言った。
「はい。もちろんです」
「さっさと出版にこぎつけろよ。時間がないぞ」
「もちろんですよ」
「営業部には俺が話を通しておくし、内容も伝えておく。それでデザイン、広告戦略も進めてくれるだろ」
「はい、よろしくお願いします」
「おう」
編集長は、そのまま出て行った。
多分、5階の営業宣伝部に行くんだろう。
そっちは編集長に任せることにして、後は俺の頑張り次第だ。
俺はまた初稿をめくり始めた。
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