第9章

18/26
873人が本棚に入れています
本棚に追加
/240ページ
原稿データを印刷所に送り、版を組んでもらって一度プリントアウトしてもらった。 印刷所からは文庫のフォーマットで見開き2ページに印刷されたものが届く。 それに校正箇所を赤書きして、また印刷所に送り返す。 そして、向こうのデータを手直ししてもらうのだ。 それを場合によっては何回か繰り返す。 もちろん、まどかに書き直しを依頼することもあり得る。 面倒くさいが、これが通常だ。 俺が校正している間、編集長は自分の席で、その初稿のコピーを読んでいたが、 「井上!」 「はい?」 呼ぶと同時に俺のすぐ側にやって来て、 バンバンバン! と、俺の肩を叩いた。 「痛ったぁ~。何するんですか」 「いい!これ!いいな!」 手に持った原稿の束を指差した。 そっちを叩かないのはさすがか。 「当たり前でしょ?あの遥まどかですよ?」 「いやぁ、正直俺は、まだここまで書けるとは思ってなかったんだよな。それどころか、期限に間に合うかも疑ってたからさ」 「確かに……」 「お前がクビになるのが忍びないと思ってたんだよ」 「あのぉ……本気だったんですか?」 俺が編集長をジト目で見ると、彼は「まあまあ」と、片手で抑えた。 「そうですね、編集長の言ったとおり、ネタの問題だけでしたからね」 「ああ、描写力はさすがだな」 「でしょ?」 「そうだな」 編集長はニヤッと笑った。 そして、 「すると……」 そう言って俺を見た。 「すると?」 「四季賞だな」 彼は真面目な顔で言った。 「はい。もちろんです」 「さっさと出版にこぎつけろよ。時間がないぞ」 「もちろんですよ」 「営業部には俺が話を通しておくし、内容も伝えておく。それでデザイン、広告戦略も進めてくれるだろ」 「はい、よろしくお願いします」 「おう」 編集長は、そのまま出て行った。 多分、5階の営業宣伝部に行くんだろう。 そっちは編集長に任せることにして、後は俺の頑張り次第だ。 俺はまた初稿をめくり始めた。
/240ページ

最初のコメントを投稿しよう!